2026/06/30 20:39

それまでの私は、それなりにいろいろなことを乗り越えてきた。
仕事にも少し慣れて、毎日は充実していたし、自分なりに成長できている実感もあった。
けれど、どこかに、まだ少しだけ足りないものがある気がしていた。
そんなときだった。
会社のプロジェクトで、別部署のA君と一緒になった。
生意気で、少し強引で、どうにもそりが合わない。
でも彼は、いつも迷いなく前へ進み、ぐいぐいとプロジェクトを引っ張っていく。
その姿は少し腹が立つのに、目が離せなかった。
今までの人生で、こんなタイプの人に出会ったことがなかった。
だからこそ、余計に気になってしまうのかもしれない。
その夜も、私はそんなことをぼんやり考えながら、My Personal Space に入った。
いつもの無撚糸タオルに顔をうずめる。
ふわりとしたやさしい感触に包まれた瞬間、胸の奥が少しだけほどけた。
……え。彼の顔が浮かんでる?
どうして、今。
なぜこんなときに、あの生意気な横顔が思い出されるんだろう。
気づけば私は、いつも同じ場所ばかりを、何度も何度も拭いていた。
それはまるで、考えたくないのに、ずっと彼のことを気にしているみたいだった。
「もしかして……気になってるの、私?」
答えは出ないまま、私はその夜、それ以上考えるのをやめた。
ただ、深い眠りに落ちていった。
翌朝。
目が覚めた瞬間から、いつもと少し違っていた。
体の奥が、ふわふわと落ち着かない。
なのに嫌な感じではなく、どこか弾むような、楽しみな気持ちだった。
洗面台の前に立ち、いつものようにモーニングルーティーンを始める。
でも、鏡の中の私は少し違う。
「え? 今日って、私かなり念入り?」
いつもより丁寧に、いつもより時間をかけて、化粧をしている。
どうしてだろう。
やっぱり、彼のせい?
そう思った瞬間、自分でも少しだけ笑ってしまった。
会うのが楽しみだなんて、私らしくもない。
でも、その気持ちはもう止められなかった。
まるで、私のいつもの My Personal Space が、彼のいる場所へ引っ越ししてしまったみたいだった。
そんな不思議な感覚を、私は静かに受け止める。
それもまた、ひとつの大切な経験なのかもしれない。
そう思って、私は身支度を整えた。大切な魔法の無撚糸タオルを棚に置いて
「いってきまーす!」
玄関にこだました声は、いつもより少しだけ明るかった。
爽やかな朝が、そっと私を送り出してくれる。
そしてその日、私はまだ名前のつかない恋の予感を胸に、ときめきとともに会社へ向かった。
