2026/07/30 21:44

第9話 昇格と別れ



あの会議室での拍手から、A君と私は一気に社内でも有名になった。 






企画は高く評価され、私たちの名前は、いつのまにかいろいろな部署で聞かれるようになっていた。





そして、恒例の人事発表の日が来た。  





社内掲示板には、昇格人事がずらりと張り出される。 





 

私は、少し緊張しながら人だかりの向こうへ視線を向けた。






A君は、ニューヨーク支店の支店長。  






私は、本社企画部のマネージャー。







それを見た瞬間、私は目を見開いた。






「え……? A君、ニューヨーク……?」






言葉にならなかった。  






うれしい。  





でも、寂しい。  






寂しいのに、すごく誇らしい。 





 

彼なら、もっと上に行ける。  






そう思う気持ちと、もうすぐ遠くへ行ってしまうという実感が、胸の中で何度もぶつかり合った。







うれしさと切なさが、同じ場所にあった。  






私はその複雑な気持ちを、うまく言葉にできなかった。







そしてやがてA君が、ニューヨークへ旅立つ日が来た。  







空港まで、私は見送りに行った。  







出発ロビーは、いつもより少し静かに見えた。 






 

周りには別れを告げる人たちがいるのに、私たちの間だけ、時間が止まったみたいだった。







やっぱり好きなのかもしれない・・・・。






A君は、いつものように少し強引そうな顔をしながらも、どこか晴れやかだった。 






 

そして、私をまっすぐ見て言った。








「ありがとう。洋子ちゃん。今回はすごくいい勉強をさせてもらった。お互いに頑張ろう!」






その瞳は、ギラギラと野心に輝いていた。  








まぶしかった。  







本当に、まぶしかった。






この人は、止まらない人なんだ。







 

私と過ごした時間を大切にしながらも、もっと先を見ている。  








その強さが、少し切なくて、でもとても素敵だった。









飛行機を見送った帰り道、私はずっと胸がいっぱいだった。  







家に帰ると、急に切なくなりしばらく泣いた。  








彼も私も昇格してうれしいのに、どうしてこんなに涙が出るのか、自分でもわからなかった。









しばらくA君に会えなくなってしまう寂しさかもしれない。









でも、また私は My Personal Space に入った。  








白の無撚糸タオルを顔にあてると、不思議と、さっきまでの苦しさが少しずつほどけていった。  







無撚糸独特のふんわりと優しい肌さわりが1つずつそれをほどいてくれているようだった。 







ひんやりした光とやわらかな感触に包まれて、呼吸がゆっくり戻ってくる。





人を信じること。  






そして、自分なりに精一杯努力して、目標に向かうこと。  







今回のことで、私はそれを学んだ気がした。






顔にかけた無撚糸タオルの隙間から、照明の光が差し込む。  







まるでその光が、「未来へ向かって」と言っているみたいだった。





そうだ。  






やっぱり私は、この My Personal Space から成長していく。  






ここに来ると、私は私でいられる。  







そのことが、今は何より心強かった。






そして私は、遠いニューヨークにいるA君と、またいつか再会する日を思い浮かべながら、深い眠りについ


ていった。